[琵琶読本] 婦人用の琵琶

 三味線でも、太棹や細棹などの種数(※1)がある、そしてその細棹のなかでも長唄、清元、常磐津、新内、小唄等々その芸の質によってそれぞれ異なった作りがある。洋楽でも男の持つものと女の持つものと皆、それぞれ楽器に相違がある。琵琶界においてもまた相違があってしかるべきである。
 ところが、男の方はこの事に気付いた人は沢山いるが女の方にはいない。あったところで僅かに楽器の形を小さくする程度のことで、他に音などに考え及んでいる人はない。

※1) 種数(しゅすう) 似通ったグループの中にいくらか異なるものが存在すること

女性美破壊
 形の上からは、女の持つ琵琶は女性美を助けるものでなければならないのだが、私の今日までに見受けた女性諸姉の持っている楽器はほとんど男子用の楽器で、そして男の持っているより汚かった。もっとも婦人は綺麗な着物を着てお白粉を塗り、指輪や腕時計で飾り立てているから特に目立つのかもしれない。しかし、琵琶に白粉が浸みており、弦にも白粉と手垢が染まったりしてるのはやはりよろしくない。
もっとも髭もじゃの男があんまりきれいにした琵琶を持っていると顔負けがするかもしれないけれども、綺麗な女が小汚い琵琶を持ってると琵琶の方で顔負けがする。

 音の方で言うなら、女の声は男よりはるかに甲高い。その女性が男の声に合うように作った琵琶を持って調子をうんと上げて弾くので、音にはなはだしく無理がある。異様な音、楽器から縁の切れた音がしている。

弦の不揃い
 私の門下では以前、女の琵琶師で高橋君子、前山春子などの門人がいたが、調子は五-六本であった。それさえ当時は針金琵琶とさえ称したものだ。しかるに近頃では五-六本では話にならない、八-九本?「いいえ妾は十一本よ」「いや妾は十二本」なんていう豪のもものまで出てきた。これが良い傾向か悪い傾向かは別問題として、その高い高い声に合う音の出る楽器を選ばなければならない。それに女の声は男の声より細い。しかるに男用の楽器を持って演奏するから全く音と声とがかけ離れている。そこへ調子が高くて弦を締められないから四の弦だけは特に細いものを用いる。四の弦だけを細くするから一二三は同種の音でも、四だけが別種の音になる。はなはだしきに至っては四の糸の代わりに三味線の三の糸をかけるのがある。これでは音として満足できるものではない。もし満足しているならば、その人は極めて幼稚な人である、不満足を忍んでやっているならば気の毒である。そこでかかる苦しいやりくりは算段しなくてもよい琵琶を作らなければならない。けれどもそれは買う人が注文しなければ出来ないのだ。単に形だけ小さくして「これが婦人用だ」などと思ってはいけない。

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